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月色の砂漠(2)

あの大人気ヅカブログ「ニコライ少尉の多少黒い眼」とのコラボ企画~!

【リレー小説】月色の砂漠(1) | ニコライ少尉の多少黒い瞳

の続きです!!ニコライ少尉の才能がとまらない…!!!プレッシャーも止まらない…

 

ちなみに私が先週書いた「黒天使リーダー翔さんは、今日も多忙」の

続きもニコライ少尉のブログで読めます!

私もどうなるのかドキドキです!!

 

 

月色の砂漠(2)

 

 

テオドロスは悩んでいた。

自慢の金色の髪を夕日に溶け込ませ、一回大きく息を吐いた。

「タルハーミネは美しく聡明で、ダンスの名手…

そして大国の軍神と崇められている…

私の隣に立つのに不足ない女…なのになぜこんなにも胸が苦しいのだ」

 

テオドロスは恋をしたことがない。いや、これまでに女は切れなかったし、

そんな自分にも納得している。女が放っておくタイプの男じゃないのだ。

飽きれば捨てたし、欲しかったら誘う。一夜で終わることも多い。

 

手の中の写真のタルハーミネは、今すぐにでも人を殺すかのような

鋭い眼光を放ちながら隠す必要はないとでもいいたげな体の線が出るこの地方独特の

民族衣装に身を包んでいる。

 

「タルハーミネ…この写真を見た時から俺はどうかしている」

 

胸の高鳴り、体温が熱くなるのが自分でもわかる。

この女を手に入れる時、俺はどうかなってしまうかもしれない。

写真でしか見たことがないのに、早く彼女に会って、

触れてみたいと思ってしまうのだ。そして、君のすべてが俺のものになったら…

テオドロスは胸の高鳴りを抑えきれず、ぎゅっと写真を握る。

その写真には、もうひとり写っていることにテオドロスは気づいていなかった。

自分と同じ熱っぽい目線をタルハーミネに送っている男、ギィはテオドロスが

写真の中の彼女にひとめぼれした瞬間も彼女のそばにいた。

 

「ギィ!!どうして女は結婚しなくてはならないのかしら?私今のままでいいのに。

ギィがいて、お父様がいて、好きな時に踊れればそれでいいのよ。

お金だってあるし、国もあるし。」

こういっちゃなんだが、タルハーミネは飽きっぽい。

最初はノリノリに「ダンスの名手」「色男」というワードで浮足立っていた

タルハーミネだが、「花嫁修業」という目の前に立ちはだかる壁に

もう弱音を吐いている。でもギィは気づいていた。別に花嫁修業が嫌なんじゃない。

今日、先生がさらっと言った言葉にタルハ―ミネは思考停止し、

考えすぎて自暴自棄になっているのだ。

そして結婚ってめんどくさい…というターンになっている。

今日の授業は「夫婦の夜の営みについて」だった。

 

ギィは顔を真っ赤にして先生の授業を聞いているタルハーミネを見ながら、

前にした彼女の父親と自分の会話を思い出していた。

「タルハーミネがこの国の後継者である理由?」

ジャハンギールはいつも威圧的な空気をまとっている。

自分がひどくみじめで何もできない人間だと、誰にも言われていないのに

そういう気持ちにさせる男だ。

ギィは奴隷なので、一国の主と話をするなど不可能に近かった。

狩りの途中、ジャハンギールが一人になったのを見計らって近づいた。

 

もし、ジャハンギールがギィの納得しない理由で

タルハーミネを第一世継ぎとして教育しているとしたら。

そうしたら、俺はタルハーミネを攫う。この国から残り香を残すこともなく

いなくなって、ふたりだけでこの世を生きていく。

 

欲しい女のためには人を殺すこともきっと躊躇しないタイプのジャハンギールは、

氷のような目でギィを一瞥すると言い放った。

「お前には一生わからないだろう。

なぜならば、タルハーミネはお前だけの世界で生きていける女ではないからだ。

今、お前の考えていることなど手に取るようにわかるが、もしそれをして…

お前の世界だけの世界でタルハーミネが生きていけると思っているか?」

「…」ギィはカラカラにのどが渇いていた。

それはこれが砂漠の国のせいだからじゃない。

「…反論しないということは同意ととる。お前が今の話を理解できるなら、

タルハーミネ付奴隷の資格だけはある。話は以上だ」

赤いマントをばさっと翻し、ジャハンギールは部屋を出ていった。

 

 「ねえ、ギィ、私はテオドロスとそのう…夜を一緒に過ごさなくてはだめなの?」

「夫婦になったら同じベッドに入らなけばなりません」

「入るだけじゃダメかしら?例えば、眠るまで話をしたりトランプしたり…

あっでもその時はギィも混ざってほしいわ。

二人のババ抜きほどつまらないことはないし…話をするときもギィはいてね。

テオドロス様と話が続かないかもしれないわ。

あのきれいな顔をベッドの中で見つめていたらきっと緊張してうまくしゃべれないし」

「タルハーミネ様」

「私はギィとはずっとしゃべれるから、テオドロス様が眠ったら私たちだけで

話してればいいわ。そうすれば退屈しないし、やがて朝が来る」

一気にタルハーミネは話すと、ふうっとため息をついた。

「世継ぎを生むためにそれをしなきゃいけない…夜が来るのが嫌になりそう。

今はギィと夜おしゃべりするのが一番楽しみなことなのに」

「私との夜…」

「そうよ。すべてのことから解放されて、この時間が永遠に続けばいいのにって…」

「…なら、試してみますか?」

「?なにを?」

「僕とそういうことをしても、「永遠に続けばいいのに」とタルハーミネ様が…

タルハーミネが思うかどうか」

 

そういうと、ギィはタルハーミネをじっと見つめる。タルハーミネはギィの熱っぽい視線から逃れられない気がした。