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雪組「星逢一夜」①早霧せいな、咲妃みゆの演技センスの「本当の星」



※ネタバレ回避しようと思ったけど思い通りにいかず。すみません…



新しくて切なくて、美しくて儚い、でも綺麗なだけではない人間の話。


そこに三日月藩があって紀之介がいて泉がいて、源太がいて

みんな笑っているのに、笑顔ですまされない三日月藩


その方法しかなかった。そうとしかできなかった。

ある意味、このお話はドキュメンタリードラマです。

その行動しかみんな、できなかった。

それしか解決策がなかったと蛍村の人たちにいったら、どういう反応をするのだろう。

みんな苦しんだ。みんな悩んだ。その結果が、このラストだったんだ。



子供時代は相当嫌なことがない限り、10歳くらいの頃は楽しい思い出しか残らない。

あの時あの子が好きだったとか、あの時はこうやって笑いあったとか。

ただみんなと秘密基地みたいな櫓を作るのが楽しくて、
出来たら登って空を見上げるのが美しくてまた、嬉しい思いしか残らなくて。

家にいると憂鬱なことばかりだった紀之介も、

寂しかった泉も

ただ泉といたくて泉を1人にするのが心配だった、源太と。

3人で星探しをするのが幸せだったのがふと途切れたとき、3人は大人になる。



◆天野晴興 早霧せいな



早霧さんの繊細で孤独で聡明な紀之介。
紀之介は自分の地位とかを考えるような子供ではなかった。

きっと、ただ星が見たいだけ。

本当の星が見たいだけ。

その星が、泉になっただけ。

純粋なところは何も変わらず、周りが大人になっていく。
大人だけになっていく。
きっと郷に帰って泉に再会した瞬間、晴興は紀之介に戻って
それは懐かしさではなく泉と「今」を生きたくなったのだと思う。

何もかも放り出して海を渡るなんてできるはずもないこと言ってみて、
そして1人泣く。

そこには泉はおらず、待って待ってと後をついてきた源太もいない。

大人になった自分が自分で失ってしまった、尊いもの。

きっと紀之介の大事な「本当の星」は泉と源太。

江戸からはそれが見えなかったんだね。
だから紀之介は、いや晴興は我を殺して、星探しもやめてしまった。

探しても、見えないから。



早霧さんの「孤独な」演技は秀逸。

ニジンスキー」「双曲線上のカルテ」「shall we」のエラも、最初は孤独でひとりぼっちだった。

早霧さん自身はきっと、「行くぞー!」っていったらみんなついていくし、
リーダーに向いている性格だと勝手に思っているけれど
びっくりするくらい孤独な演技ができる役者で、人の痛みもわかる人だから
こういう孤独な役ができるんだろう。

散々演技がジャンプだっていってきたけど、ごめんなさい。
今回はジャンプではなく、1人の孤独だけど、
聡明でちゃんと人の立場になって考えられる大人の人間でした。

私が一番晴興が大人だと思ったのは「からかっただけじゃ」と
泉をぎゅーっと抱きしめておいて言うところ。
晴興のいい意味でも、ちょっと残酷な意味も感じる

「からかっただけじゃ」。

大人で人の立場にたって考えられる人間じゃなくては言えない言葉。
きっと泉が困るから、ちょっと寂しそうに笑って言う。
晴興らしい言葉と、そのニュアンスでこちらが胸がぎゅっとなる言い方で
「晴興」という人間を表しているセリフだと思いました。

困っている人や迷っている、大変な人をすっと態度で対処する。
早霧さんの無邪気さの中に、独特の演技センスの厚かましくなく
さりげなく助けてくれるスマートな晴興像が早霧さんの中で明確に掴めているのかな、
だからこんなにも心を揺さぶられるのかなと思いました。

晴興の行動はいい、悪いで片付けられる問題ではない。

その人たちの立場で評価が変わる行動をして、
泉を失ってしまった。

結果論であって、これは誰も変えられることができなかった運命じゃないかなと思うのです。

運命は変えられる、それは本当だろうか。

晴興の行動ひとつひとつ見ていると、私はどうだろうか。
人生についても考えたくなるキャラクターでもあると思います。

美しいだけじゃない、完璧な人間ではない晴興が愛しかったのだと思う。

源太も、蛍村の仲間も。そして、泉も。




◆泉 咲妃みゆ





晴興も孤独であれば、泉はまた孤独である。

父親を一揆で殺されて、子供ながらに働きながら、戦いながら、強く生きている。
心の拠り所は蛍村の仲間。

泉を理解してくれて強く信頼してされている泉は女性だったら1人いたら心強い友達になると思う。
誰よりも正義感が強くて、頼りになる。

源太はきっとそんな泉の「本当の星」になりたかったんだと思う。

いや、半分以上なっていたのではないか。

晴興は7年おらず、ずっとそばにいたのは源太。
情が湧いて当たり前だし、ずっとその平和が続くと思っていた。

紀之介がいない世界でも生きていける。
自分に言い聞かせて7年やってきたのに、突如大人の男性になった紀之介、いや晴興が現れる。

泉が預かったものは小太刀と、「晴興が戻ってこれる場所」。

けれど紀之介は7年戻ってこない。

江戸の綺麗なお姫様とよろしくやっている、そう思うと自分が惨めに思えてくる。
そんな自分を優しく受け入れてくれる、源太。

源太が私の「本当の星」だと思いはじめたところに「晴興」が現れる。

そして自分を美しいという。

けれど現実は残酷で、「本当の星」と思い始めていた源太を失ってしまった泉は
「紀之介から預かったもの」を自分の手で失くそうとする・・・



タカラヅカのヒロインっぽい役と思えば、そうではない。

なにより強い。

現実を見据えて受け入れられる広い心と精神力。
そして、2人の男性に想いを寄せられるもその想いや男性に「依存」していないところが
演技派咲妃みゆという娘役ヒロインの強さというべきか。

「伯爵令嬢」のときもそんな想いを感じた。
やっていることやいっていることは大したことじゃない。

だけれど、それを受け入れる心の強さがみゆちゃんのヒロインには感じる。
みゆちゃんは強い。
それは精神的な強さで、相手を困らせる強さではなく優しくなれる強さ。

頑張れ、と言われているような態度や言葉を感じるとストレスになるときがあるけれど、
みゆちゃんはそれを一切感じない。そこがみゆちゃんの演技センスで、
いやみに感じないすごさだと思う。

自分の世界を変えてくれた紀之介と、変えた晴興とでは泉にとって別人物みたいな感情が
芽生えたと思う。

だけれども、愛さずにはいられなかった。

抱きしめられたら突き飛ばせない感情が残っている。

それは泉にとって「本当の星」は紀之介、晴興、どちらもだから。
小太刀をくれたのは紀之介で、源太のために失くそうと振りかざしたのは晴興。

だけれど失くすことはできない。

紀之介との思い出も、晴興の腕の中の暖かさも。

けれど泉は逃げ出す弱さは持ち合わせていない。
晴興となにもかも捨てて逃げ出す、その楽な道に進めない。

みゆちゃんの泉は暖かくて優しくて、強い。
そんな泉に紀之介も晴興も心惹かれたし、源太は守ってやらないとと思ったんだと思う。

紀之介、晴興のために泣いた。

源太のために「本当の星」を消そうとした。

それが泉の強さと弱さ。
紀之介、晴興、源太。私は泉は3人の男に惚れられたから、人間らしく強く生きているのだと思う。

愛を強さにする強さを持つ泉。

美しさとはこういうことを言うのだろう。



ふたりの計り知れない綿密な演技の重ね合わせ方に真の「ちぎみゆ」を感じました。

「ちぎみゆ」なんて言葉では軽いのかもしれない。

ラストシーン、二人が櫓の上で語り合ったものは、本当に晴興と泉だったと思います。

そこには三日月藩の空に浮かぶ「本当の星」も見えました。2つね。





次回、源太の「本当の星」、脚本力と演出力の上田久美子先生の世界を語りたいと思います。

本当にこの「星逢一夜」、ずーっと語っていたい、語れる力のある作品なんですよね。


早霧せいな、咲妃みゆ、望海風斗、雪組生」+「星逢一夜」、

の今しかできない!!今しか!!!のオリジナル作品だと思います。

そして今、その場に立ち会えて幸せです。