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宙組「翼ある人びと」

今日しかない!と短いDCの日程とにらめっこして梅田へ。
今年は「そもそもは、予定になかった」公演へ行くことが多いが、今回は
きっちり予定に入れていてそして、心から「よかった」と思える公演に出会えた。
名作が生まれる確率が高いDC公演だが、上田先生は小劇場系2度目で
デビュー作の「まぐれ?」から「本物!!」に確実にステップアップしただろう。
100周年にやってくれるぜ、上田久美子先生。
とんでもないモンスター演出家に化けるかも。

と、いうことで「翼ある人びと」見てきました。ダブルできないことをハンカチ噛みつつ。

なんといっても、勝算はロベルト・シューマンを演じた緒月遠麻だと思う。
あの暖かい「先生」は、なかなか出せるものではない。
ロベルトの強さも、弱さも描かれている今作品だが、私はまず
強さよりも、弱さよりも「暖かさ」に感動した。穏やかな性格に、クララを、子どもたちを
一心に愛する先生。そして、才能があるにも関わらず翼を持っていなかった
ブラームスに、「片方の翼」を与える。安い酒場で働いていたブラームス
その言葉の通り衣住食を与え、愛を持たせ、力をつけて、ときどき友達のように
笑いかける。ただ単純な「師弟関係」ではなく、史実でどれだけ年齢が違うのかは
私は存じないのだがときどき「親子」、「友達」、「恩師」・・・ブラームスに、ロベルトは
どれだけの顔を向けてきたのだろうか。そのロベルトが自分に笑いかけなくなった時、
ブラームスはどんな気持ちだったのだろうか。考えると、胸が痛む。

ロベルトは精神を病んで死んだのではない、ということを臨終のシーンに
緒月は証明してみせる。弱いところもあったけれど、きっと「弱さ」「強さ」ではなく
「暖かさ」がロベルトの人生をあのような形になってしまったのだろう。
緒月ならではの演技の表現力で、血の通った「暖かい」ロベルト・シューマン
人生を演じきった。よく宝塚作品で人が死ぬ場面も演じることも多いが、
たいてい専科のベテラン選手か若い恋人だったりする。緒月の学年であそこまでの
死期迫る迫力の演技、ではなく穏やかに息絶える、という演技をするのは
容易いことではないと思うし、私はもちろんロベルトの全生涯を知っているはずもなく、
本当にそのような人物だったのかも定かでもないに関わらず
そこにロベルト・シューマンがいたかのようだった。

静かな臨終のシーンに、涙がとまらなかったのはロベルトの元気な頃、
クララとブラームスのふたりの関係に心穏やかではなくなってきた頃、
ブラームスの才能に恐れを感じ始めた頃
子どもの成長に目を細めたこと愛するクララのピアノを聞いていた頃・・・
自分が死ぬわけでもないのにロベルトの感情がぶわっとフラッシュバックしてきたのは
緒月の「暖かさ」だ。演技とは思えない、緒月遠麻という人物の暖かさとも
いえるかもしれない。もちろん彼を知っているわけでもなく、友達でもないわけだが
緒月遠麻という人物が宙組で愛されている存在であること、それが反映されているかのよう。

ロベルトの周りはいつも暖かい空気で人を和ませる。
「先生」「ロベルト」「シューマン」・・・いろいろな人が、いろいろな呼び方で彼を慕う。
シューマンは終わった、そんな噂もする輩もいるがそいつらは放っておけばいい。
クララと子どもたちとピアノ。それで彼の人生は十分だったのではないかな。
でも彼は病魔にまで愛されてしまった。

セリフにもあるように、(ニュアンス)「ロベルトの大きな翼に包み込まれて」
劇場は本当にシューマン緒月の演技という音の旋律に誘い込まれて、
見入ってしまいました。

ほんと緒月さん、ヤン・ウェンリーといいヴェルツィッチオといい、
宝塚ファンが「結婚してください(跪き指輪パカッ)」系男役だわ。
恋愛より、結婚したいタイプ。

あと印象に残っているのはベートーヴェン?凛城きら。
あの音楽室に吊るしてあるベートーヴェン?風貌そのままの登場で
ドキモを抜かれた登場から最後ブラームス
見送るシーンまで見事としかいいようがないのです。
稽古場から問い合わせが殺到していたというベートーヴェン?ですが、
りんきらさんが丁寧におっしゃっている通りブラームスの妄想にしか登場しません。
だがしかし、強烈な印象と共に最後は客席のまん中からブラームスの人生から
去ります。大きく、手を振って。それは、「エリザベート」のトート閣下でもなく、
「ロミジュリ」の「死」でもない、けどブラームスにしか見えない自分の人生を
脅迫するような存在。なんせあの風貌なので、最初はりんきらさんが浮いているようにも
思えるのですがそこはりんきらさん、芝居にどんどん入ってきます。
そして、画のようにこの「翼ある人びと」のピースにハマっていく。

最後はブラームスを脅かすものでもなく、死とか脅迫とか、マイナスのものではなく
「プラス」、頑張れよ、俺がいなくてもお前はやっていける!そんな表情で
ブラームスを見送ります。ブラームスの人生に、絶対に欠けることのなかった
ベートーヴェン?」。その影から解き放たれるとき、ブラームスは本当に
ひとりで生きていく音楽家になれる。安い酒場で「運命」を弾く青年は、もうどこにもいない。
ブラームスは「ブラームス」という人生を歩んでいく。

最初悪者かと思っていたりんきらさんの「ベートーヴェン?」は、
最後はブラームスにエールを送る、ロベルトの分身のような存在になる。
りんきらさんの巧さがキラリとスパイスになる、そしてこの脚本を書いて演出した
上田先生の底知れぬ才能に感嘆しながら私はりんきらさんの背中を見ていました。

あっきーヨーゼフ。

確実にファン増大でしょう!バイオリンを弾く姿がかっこよく、ロベルトと
ブラームスを引き合わせた人物で明るくて才能もある、若き音楽家。
れーれルイーゼに惚れているけれど、そっちの方はからっきし。
けれど最後までルイーゼを想っているし、誰よりも人間的にできている。
そして、人の才能を見出す天才。ブラームスにはふたつの紹介状を渡します。
フランツ・リスト」「ロベルト・シューマン」・・・この人選とそれをなせる人脈はさすがヨーゼフ!
あっきーは「WMW」ネッドから、この手の役をやっていますがとっても似合う。
明るく陽気で有能。あれ、私緒月ロベルトと結婚したいんじゃなかったっけ。
ヤバい、あっきーヨーゼフもかなり素敵な男です。

あいちゃんリスト。

ハマり役!!!着実にステップアップしているあいちゃん。
キザで、女を口説いてキザで周りには「リストさま~♡」と女の子の中心にいるキザな役。
ブラームスにとっては「なにあのチャラ男」みたいな感じでいい感じの印象では
ないようですがあいちゃんのちょっとエッジワーズ風のリスト、じわじわくる。
あの弱点ともいえる声も強みにかえる技も習得してきている、頼もしさ。
登場時のリストの超絶技巧の弾き方が完璧この世の男ではなく、
「宝塚の男役がもしピアニストだったら・・・」という感じなので(※褒めてます)
その仰々しさも私はあいちゃんリスト大好きです。ちょっと何事も大げさで、
キザでキザでキザなところがとてもいい。クララに手の甲にキス、という
この時代なら当たり前の仕草にも「リストさまはほんとアレなんだから♡」と
私は取り巻きの社交界の女の子になりたい。で、後々のシッシーナ夫人という布石です。
クララとの会話もいちいちキザってて、あいちゃんの本気さがうかがえます。

・・・あいちゃんは敵に回したくない、ねえ、りく?(中日で好演中)

ゆーりさんクララ・シューマン

・・・ヴィジュアルでここまでハマれるっていうのもひとつの才能です。
もう首~肩のデコルテが美しすぎる。また、肩を出すドレスが多いためまた
ドレス姿が映える映える。ゆーりさんが登場するだけでそこに華が咲いたよう。
特にポスターのグレーの衣装も素敵ですが、私は真っ赤なドレスも好きだったな。
ドレス姿でここまである人物のひとりを語れるっていうのも、そうそうできない技。
ゆーりさん・・・緒月ロベルトに包み込まれるその感触とは、いかがですか・・・?
(と、下世話な質問をしてみたい)。

ああ、無敵艦隊95期。まだ研5なのに、人妻で子持ちでいい女のクララ・シューマン
彼女の当たり役としてこの後も語り継がれるでしょう。
ほんとにシルエットが国宝級なのですわ。

最後、ブラームスを送り出すときのセリフの叫びが「伶美うららここにあり!」的で
私は感動しました。もうあのラストシーンだけで泣ける。
娘役にはちょっと大きいとマイナスに表記されがちの彼女ですが、
今回はあの身長が美点となりクララ・シューマンの人生を生きていました。
たしかに、梅田のDCにクララ・シューマンがいました。

最後、朝夏まなとブラームス

まぁ様、あのイベントと同一人物には見えない・・・。
と、いうくらい劇中ではほとんど笑顔を見せません。
いつも暗く、黙ってピアノを弾く。時間がきたらお金をもらって直帰で勉強。
夢にはベートーヴェン?が頭から離れず、彼はある一家に救われ、ある女性に
恋をして、自分の人生を歩み始める。
そんなブラームスの成長記、まぁ様素晴らしかったです。
手足の長さを存分に生かしたダンスが素敵でした。ひらひらと、蝶のように舞う雪や
落ち葉の中で踊る朝夏まなとは、美しいという以外他の言葉が見つからない。
そして、演技も堂々の主演ぶり。緒月ロベルトとはまた違う、優しさにあふれています。

Ⅰ幕最後、クララに向かって絶叫するブラームス
それは禁断の言葉。

けれど、それで彼らの関係が変わるほど彼らの絆は弱くないのです。
そのクララとブラームスの信頼関係が、まぁ様の誠実さ、真面目さ、チャラ男とは
いわれるけれど(笑)真摯でひたむきなブラームスと重なって、感動します。
ドロドロ展開になるのかと思ったら、全然違うブラームスの表情に安堵さえ覚えます。
まぁ様がブラームスだからできる芝居なのだなぁと改めて思いました。
最後の緒月ロベルト臨終のシーンはあらたな「まぁキタ」という関係の誕生ではないかと。
ブラームスにとってロベルトは「尊敬」「恩師」という言葉では片づけられない、
本当に特別な存在だったのだな、と感じずにはいられないまぁ様の
足しすぎず引きすぎずの絶妙な演技んい自然と引きこまれました。

最後、クララを振り返らず客席を去るまぁ様ブラームスの背中は、
何者にも囚われない、二枚のクララとロベルトが与えた翼がはえていて、
どこまででも飛んで行けそうな男になっていました。一体冒頭の安酒場の
汚い青年は誰だったのかな。2時間半で翼がはえた青年は、どこまででも
飛んでいくのでしょう。私たちが、見えるところまで。

最後まで見ると、ポスターの意味も、題名の意味もわかるという深い公演。
ハンカチ、いや、バスタオルの用意をしてぜひ劇場へ。
もちろん、宙組の若手イケメンも堪能できますのでそっちもお楽しみに。