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雪組「双曲線上のカルテ」早霧せいなの品格と石田作品のコラボ

「男と男と男の物語」「基本は本宮ひろ志作品(ふきだしの中のセリフはすべて大きい)」
の石田先生の「マジ物」の話である。
そんないつもは「もう、石田先生ったら・・・」となる作品のものが多い中、
今回は本当に「座付」の意味を知りました夢乃聖夏のキャラが本当に石田作品の
登場人物すぎてつらい

【見ました「双曲線上のカルテ」】

最近宝塚でも若手新進演出家の演出に凝った作品ばかり見ていたため、
石田昌也の「オーソドックスでちょっと笑いのスパイス」な「宝塚作品」作品を
見るのが久しぶりである。
照明や音楽、セット等には目新しさや「凝った人間造作」されてない脚本・演出のため、
多少の古臭さも感じるが久々に「オーソドックスな宝塚歌劇」を見れて
個人的には良質な作品だと思う。

随所のセリフ(ロザンナ(五峰亜季)とランベルト(夢乃聖夏)のセリフの掛け合い等)に
笑いがちりばめられていたり、次々病院を訪れる個性的な患者、
2幕冒頭のランベルトなど石田作品には欠かすことが許されない「お笑い」も
適度に抑え、しかしいつもの「やりすぎ」感もそう感じはせずきっと石田先生は
フェルナンド(早霧)よりランベルトの方が動かしやすいんだろうなあ、と
夢乃聖夏の芝居を見てるとビシバシ感じる作品である。

一見難しそうにとらえられる「医療物」だが、宝塚らしいロマンスもあり、
友情あり、人情を感じさせるエピソードもちりばめられていて、
タカラヅカってこういう作品も作るのね」といういいとっかかりにもなるかもしれない。

上記のとおりそれほど突発された演出はない。
けれど、ひとりひとりの登場人物の描かれ方がユニークで
エピソードもひとつひとつ駆け足ながらも書かれるいいテンポで、私は嫌いじゃない。

主人公のフェルナンド(早霧せいな)は石田先生が最も苦手とする分野の
キャラクターではないかと思う。
「クールで、冗談などは言わず、ひとりで悩みを抱え込み、
仕事はできるが人に心を許さないちょっと不良の医者」はなかなか石田作品には
描かれないキャラクターだ。
月組「長い春の果てに」のステファンと似ているところもあるが、それとはまた違う
アプローチが面白い。

基本石田作品は本宮ひろ志なのでこういうクールで低体温の主人公は
動かすに慣れないものだったと思うが、それでも早霧の演技力で
スッと入れた気がする。これが男役の力であり、必要不可欠なものである。

フェルナンド先生はクールで遊び人だけど、患者にだけはまっすぐで頑固。
そのエピソードが非常に深く描かれているのが「ピザ屋のチェーザレさん」であろう。
この作品の肝ともいえる一番のエピソードである。

自分は胃潰瘍で手術をすればすぐに治ると思っている患者は、実は末期のガン。
手の施しようがないが、うその手術をして生きる希望を与えようとするフェルナンド。
この世的にも、医療界的にもありえない感じ満載だが、そのエピソードで
「フェルナンドのひととなり」がうかがえ、彼の「医者として」ということと
「人間として」魅力的なところが描かれる重要なエピソードである。

最後のピザのメッセージは思わず目頭が熱くなった。
セリフにはセクハラ的なことも抱かずにはいられないが、石田作品の
「温かい人間心理劇場」を巧みに描きだしたところでもあると思う。
同じく、少しずつであるがランベルトとの壁も崩れてきたところを感じさせ
ランベルトの魅力も同じベクトルで彼の「生真面目」な部分をいい方向へ導く。

石田作品のギリギリ品位を救ったのは、
なんといっても主演の早霧せいなの演技であろう。
まず、ビジュアルが完璧であることはもちろんなのだが彼の演技には
どこかいつも「誠実さ」が垣間見れる。「宝塚の品格」を保つ演技をしている。
どこかでただのスケベ医者で終わりそうなフェルナンドを、彼は丁寧な芝居で
ひとつひとつ自分のものにしていて、それがこの方の最大の武器ではないだろうか。
龍馬をやっても、三枚目のバド(「ハウ・トゥー・サクシード」)をやっても、
彼は「下品」さを感じさせない。
これは石田作品には重要な項目で、逆にいえば
「品位がないと石田作品では主演できない」と私は思っている。
にじみでるオーラと、天性のスター性と、どんなセリフを言っても不愉快に感じないこと、
これが揃っている早霧せいなという役者は石田作品で息づける。
呼吸ができ、自分の舞台を創り上げることができる。

主演の早霧のできない仕事をやっていたのがランベルト役の夢乃聖夏。
石田作品には常連ともいえるキャラで、あまりの生真面目さと
ちょっと欠けるデリカシーのなさが玉にキズ。でも熱く、一生懸命で、
「この人憎めないなぁ」というキャラクターが夢乃の芝居にしっくりきた。
主役のフェルナンドが今回クールキャラということで、ランベルトがお笑い担当みたいに
なっている節があるが夢乃らしさを失わず、面白い。

と、いうか私の夢乃聖夏像そのままという感じなので個人的にランベルトには
ひいきめになってしまう。あんな面白い人間そうそういるのでしょうか?
常にセリフの最後は「!!!」という感じで、ランベルトの魅力を存分に表現。

2幕冒頭のライブシーンは「これこそ!!!私の!!!求めてた!!!夢乃聖夏!!!」
という感じでありがとうございました。
彼はバカになればなるほど魅力が増すスターなのです。(褒めてます)

ヒロイン星乃あんりは、おっとりとした娘役らしい雰囲気の持ち主だと思う。
フェルナンドが「何も持っていないから好きなんだ」というモニカ像がわかりやすく
客席に伝わってきて、やりすぎ感がない。彼女が出てくるとフェルナンドが
安心して顔がやわらかくなる感じが絶妙。星乃の「母性」が全面に押し出された
かわいい安定感のあるヒロインである。最後の優しさのあふれる微笑みが
菩薩のように美しい。「さしずめ、私はマネージャーですね」というセリフが
私の中でクリティカルヒットなセリフです。

石田作品に現れる数々の個性的な登場人物に頭がくるくるしましたが
個人的に好きなのはクラリーチェの母親・ロザンナ(五峰亜季)。
まゆみねえさんの三枚目を久々に見たのでそれも印象に残っているからか、
嫌いになれない院長夫人を好演。ああいうさばさばしたイタリア人の人妻を
やらせればまゆみねえさん天下一品。ラテン系の強さがにじみ出てる。

院長のお嬢様役で娘役デビューの大湖せしるも安定のウザさで好み(褒めてます)。
「私が持っていなくて、モニカが持っているものって何?」とかいうセリフが
絶妙なウザさなのですがさすがそこは女神せしさま、見事。
こんなに転向がうまくいったジェンヌさんは近年稀なので大切にしてくださいと
雪Pに言っておきたい。スタイルのよさも強みで、最後までフェルナンドを想う
清らかな女神せし様でした。清らかなくせして白昼堂々と
「あの子と寝たの?」とか聞くあたり、ちょww待ってイシダーwwとなるのはご愛嬌。
※せしさまのせいじゃない

数々のバイトをこなすナギショくん。
最後のアントーニオ役がただのイケメンで心もイケメンでこのお母さんから
どうしてこんなできた息子が!?というのがおいしい。
爽やか二枚目を安定の顔面偏差値の高さと雰囲気で彼もスキルアップしている
成長著しい感じがスター誕生の瞬間い立ち会ってる感満載で嬉しい。

中堅スターとベテラン座付の作品を久々に見て、ところどころに矛盾を感じながらも
お話もわかりやすくフェルナンドの最後はああいった形になっちゃたけど
なんだか心温まる作品。医療物で、ちょっとタイトルが難しそうと思って
敬遠していたらもったいない作品。