MENU

「ブラックジャック 許されざる者の挽歌」ヒューマンの枠を超えたヒューマン!

と、いうわけで3回目である。

上演当時から「ただの宝塚歌劇ではない」という評判だった
ブラックジャック 許されざる者への挽歌」。
私はすっかりはまってしまい、今日も見てしまう。
なぜ上演当時の評判を素直に受け入れ、生を見に行かなかったのか
非常に悔やまれる。おかげさまで私生活のペースを完全に乱され、
夜中の3時に嗚咽をもらす結果となり、今日が休みなのをいいことに
3回目を見ている。それでも足りないくらいなのはなぜだろう。

この作品はただの宝塚歌劇ではない。
宝塚というのは、誰かを愛し、愛される作品が多い。
最終的には主人公と相手役は結ばれ、この世で結ばれなければ
天国で結ばれる、というのがだいたいの作品である。
悲しい別れに涙する悲恋もあり、それも乙なものよ、と楽しめる。

私は宝塚のそこが好きだし、いいところだと感じて観劇をしている。

ところがこの「ブラックジャック」。

タカラヅカのくせにヒューマンドラマ」

なのである。主人公は恋をしないし、愛を知ろうともしない。
だから、いいのである。

照明は暗いし、華やかであるはずの衣装はみんなモノトーン。
派手な演出もなければ、派手なダンスもない。
近年めずらしい作品である。ただし、そこには若輩者の私に想像できない
「人生とは、人とは何か」が問われている、深いテーマが含まれている。
小劇場だからできる、タカラヅカにとって久々に新しい作品である。

まず、主人公が動かないため周りがアクションを起こさないとストーリーが進まない。
そこで登場するのがバイロン侯爵(夢乃聖夏)と、カイト(彩風咲奈)である。
バイロン侯爵は不老不死という、まだこの世に存在するとされていない人物設定。
ただそれはロマンチックに描かれることも多いが、この作品では
ただひたすら「切ない」運命と描かれている。
恋人が老いていっても、自分に皮膚や与えられるものすべてを与えてくれるのかと
今は美しい恋人がただの化け物になり夢で訴えてくるというあたり、
リアリティがあり、冷静に考えればそういうことだよな、ずっと一緒にいられるけど、
自分は老いていって、相手は若々しい美しく魅力的な「バイロン侯爵」のまま。
それを考えるだけでカテリーナ(大湖せしる)はバイロン侯爵を本気で愛しているからこそ、
苦しく、「少し時間をください」というセリフが生まれる。

私だったら深く考えもせず、「私が死ぬまでずっと相手は生きている」というだけで
安堵で終わるものが、カテリーナはそうではない。私は既婚ではないため、
相手がどうこうというものはまだわからないが、たとえば親が「私よりも先に死ぬ」という
たぶん当たり前の事実でさえ受け入れるのには現実に起これば
相当な精神力が必要、という覚悟はできている。

「大切な人が自分よりも早く死ぬ」

ということがない、ということにだけ喜びを感じるのは違うんだよ、と
バイロン侯爵とカテリーナは「結ばれる」ことで何かその答えを出してくれるようだ。
実際、どっちが早く死ぬとか、老いるとか、バイロン侯爵がカテリーナに
会いに行くシーンに深く考えさせられる。ヒューマンと呼ぶのが申し訳ないほど
深く、切なく、愛おしい。バイロン侯爵が私の理想の「夢乃聖夏」であることも
嬉しい演技だった(全力でセリフに「!!!」をつける夢乃聖夏さんのことです)。
あと単純にバイロン侯爵のビジュアルも好き。

もう一人のこの芝居の重要人物、カイト。
足が悪く、まずは泥棒として登場するマサツカ芝居でよく見かける「チンピラ」である
(昔の月組大和悠河さんがよくやっていたようなキャラ)。
そして、「チンピラ」でも悪になりきれない「ヘタレ」でもある。
結局ブラックジャック先生に助けてもらうのだが、このカイトがいるから
ブラックジャックのかっこよさ、クールさ、誠実さ、医者らしさ、人間として
大切であることが浮かび上がってくるから面白い。
カイトがエリ(沙月愛奈)に持っている淡い恋心もこの芝居のアクセントになっているし、
やはりブラックジャックという作品の「クールさ」の中にも「胸キュン」要素は大切で
必要だと思うキャラクターで、それをサキちゃんがみずみずしく演じており
最後はあんなかっこいいことまでしてくれる「好青年」になったことに
2時間半という短い時間ながらカイトに成長が見られて、こっちまで暖かくなるから
不思議だ。エリに「今度、お前の親に会いに行ってもいい」というセリフが
ほんとーに胸キュンで、そのセリフに行きつくまでエリとの間に何があったか
マサツカと小一時間語りあいたい(というか話を聞きたい)くらいである。
なんなら私が作りたい(またエリが沙月愛奈嬢というキャスティングも乙である)

そして上演当時絶賛だったピノコ(桃花ひな)。
これは本当にドキモを抜かれました。
人間が表現できる限りのピノコだった、といっても過言ではないと思う。
顔も仕草もしゃべり方も「ピノコがこの世にいたら、こういうんだろうなー」って思った。
最後のケーキにお願い事するピノコがすっごくかわいくって、
あの長い願い事は何だったのだろう?と思わせるミステリアスさもあり。

ブラックジャック先生がピノコに語りかけるセリフがすべて素晴しくって、
メモをとりたいくらい心に響く。
終盤の見せ場であり、まっつさんのこの優しい語りかけで眠りにつきたい。
落ち込んだ時にこのシーンだけ再生する意味があると思わせる名シーンです。

いい味を出しているのがトラヴィス(帆風成海)。
マサツカ芝居に必要不可欠な「独特の間で笑いをとれる」役者がいるというだけで
頼もしく、この作品のいいスパイスになってた。
特に電話のシーンは秀逸で、本当にブラックジャック先生と話しているよう。
「すみませ・・・あっ」とか、発信器の件では笑わせていただきました。
若手でこれだけマサツカワールドにハマる芝居心を持っている方が
雪組にいらっしゃると思うと、わたしのホタテさんに対する思いが募るばかりです。
桃ちゃんとの「バカ」のシーンも名シーン。

久々に「いいマサツカワールドであった・・・クーデターも起きないし・・・」←ひとこと余計
と大満足な「ブラックジャック 許されざる者の挽歌」。



「今さら自分の生き方を変えるつもりはないね」