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雪組「心中・恋の大和路」

この感動をどう文字で打ち、伝えることができるのだろう。

私の文才ではおそらくその力はないし、語彙センスも全くおいつかない。

けれど向き合わなければ自分の中のこの感動をとどめることも私の力にはないので、

とりあえず生で「ファンタジー佐川」を見れた喜びだけはここを中心に愛を叫びたいっていうものだ。


これは、なうおんでも壮さんがおっしゃっていたように

「究極の純愛で、最後はハッピーエンド」だ。

その意味がようやく咀嚼でき、過去の自分の発言をいまさらながら、

訂正したいと思う。


「心中・恋の大和路」はバッドエンディングではないのだ。


ふたりは心から想いあい、打算や余計な計算もなく、ただひたすら愛をつらぬく。

これほど宝塚に似合う作品はないのではないだろうか。

近松の心中ものを宝塚でやるということがどうも私の中では

歯車がかみ合わない感じがしていたのだが、まあ初めての「心中」なので許してほしい。


これを今の雪組で、しかも半分の力でできるという事実にただひたすら

唸るしかない。全ツであのクオリティが出せるのに、まだ半分、雪組という

芸達者軍団がいる。その軍団は大坂言葉を巧みに操り、一幕ではところどころで人々を笑わせ、

主役の華とオーラを持つ、オールマイティでありなおかつカリスマ的な何かを放つ壮一帆

一身に忠兵衛(壮)を愛し、汚れを知らない真っ白で純真無垢な愛加あゆ、

二番手で歌唱力、芝居、圧倒的な力で観客を圧倒させる未涼亜希、

そこから宿衆のリーダー的存在の藤屋・香綾しずるがまだ研究科二ケタやっとという

学年なのに、もう立派な役者なのには舌を巻くしかない。

宿衆6人の所作の美しさにたたずまい、番頭の帆風成海にいたっては

「え?この前新公を卒業したばかりってうそでしょ?組長を卒業して専科に入ったの

間違いでしょ?」となるのは必須というようなありさまだ。


帆風を語りだすと少々長くなるし愛が強すぎてウザくなるのが申し訳ないのだが、

そもそもホタテ先生は新公などでもこっちがいやとなるほどその実力は知ってるつもりだった。


が、実は私はホタテ先生の真の力を知らなかったようだ。


愛媛出身という地方のはずなのに、たおやかでゆるやか、そして聞き取りやすく

柔らかさも持ち合わせる関西弁で客をなだめる番頭という役目は

これは書下ろしのアテガキかと思わせるほどピッタリ。

気候で飛脚が遅れている、という言い訳をこのように優しく包み込むように言う

佐川急便のコールセンターにいたか!?とつい思ってしまうホタテ先生の番頭。


そして、着物をひとつ着る所作でも美しさここに極めたりなのである。

与平(月城かなと)に着物を着せてもらうシーンがあるのだが、そこのホタテ先生は手の先まで

番頭の香りがする。うまいし、そつがないし、何もかも完璧なのに、

壮演じる忠兵衛が現れるとさっと自分の身分をわきまえて後ろに三歩下がり、

主役や真ん中で演じる人の邪魔はしないのだ。うるさすぎない、その演技。

私今ホタテ先生の素晴らしさならあんなに苦労した卒論も難なくかける気がします。


その与平、月城かなと。

こちらもホタテ先生同様、抜擢にあの学年で見事応えている。

常にハの字眉、困り顔で「へい、へい」と使われるが芯は強く、誘惑に負けない。

与平は忠兵衛と同じ状況(女郎に恋焦がれ、手元にある金を使いそうになる)に置かれるが

つい封印を解いてしまう忠兵衛と、思いとどまる与平。

その対が、面白い。


あの時与平のように忠兵衛が思いとどまっていれば――――


後からじんわりとそうも思わせる、いい与平だった。

まあ、それは与平には忠兵衛という雇い主がいて、忠兵衛がお金を出してくれて

与平はかもんへの想いが満たされる、という「忠兵衛」という存在がいてこそだというところだが。


未涼亜希、八衛門。忠兵衛の親友で、最後まで忠兵衛を思いやり、

最後は追われる忠兵衛を逃がす最後までかっこよく、粋な男である。

忠兵衛を思い、郭で大酒を飲み忠兵衛のことを大声でバラすシーンは

「これぞ本当の友情というものか!」とハッとさせられる。本当のことはちゃんといい、

身分をわきまえてつつましく生活する。それがどんなに簡単なようで難しいことか

今の私には痛いほどわかるところなので個人的にとても反省させられた。


せーこスカのまねで「買っちゃえ買っちゃえ!」や「行こうよ行こうよ!」といってしまう

自分をとても恥じ、八衛門のような私の友人にとっていい友人でいよう、と

未涼亜希八衛門に諭された次第である。


そして歌唱力の未涼亜希は最後の最後でその力を余んなく発揮する。

この歌の素晴らしさとは、お前は一体何を見てきたのだ、何を聞いてきたのだ?


これぞ、「聴かせる歌」というものなんだよ!!!


とまたしても未涼亜希にしてやられた感いっぱいである。

名曲の絶唱、それはもはや歌というものではないのかもしれない。

何かの魂の叫びのような、その真っ白い雪山で忠兵衛と梅川が力尽きるその時まで、

見届ける。それが悲しい形であろうとも。

平成の世に残る歌とはこのことだ。国営放送さん、そこんとこよろしく。


この舞台は下級生に至るまで本当に

「今の雪組に合わせてうまい演出家が書き下ろしたアテガキ」

のような配役・設定・効果・そして質の高さである。


「心中ものは暗いし重いし!和物だし!」という方にこそ、見ていただきたい。

そして、できればパンフも買っていただきたい。

谷先生の文章がとても素敵だし、「死というものは美」という谷正純という演出家を

今初めて「それもありかもな」と思える。


最後、時間の関係で割愛したが、久城あすの歌声・真地佑果の天真爛漫で笑いのとれる芝居センス

大湖せしるの「そこにいるだけでいい意味のある美」、汝鳥伶のさすがの凄み、

五峰亜季のご隠居さんのかわいらしさも特筆すべき舞台。


下級生までキラキラ光っているこの公演、私がひとことつぶいやいたのは


「ここまでくると(雪組は)末期だな・・・」


でした。






いや、もう素晴らしすぎて雪組怖い。