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宙組「華やかなりし日々」【CS鑑賞】これぞ男役の真髄!大空祐飛ラスト公演にブラボー!

大劇場で見た時は大空祐飛氏サヨナラムードいっぱいのなかだったので
実はあまりお話はよく覚えていなかった。あまりに感慨深かった。

最後の深紅のバラの花束を銀橋に置くというキザで、
宝塚っぽいけど新しい演出、職業は詐欺師だけれど人としてはよくできている
ゆうひさん演じるロナウドに魅了された。それは、今回CSで「音楽の割愛」が
されても揺るがない。ガッカリはしたけれど、ゆうひさんの魅力がつまっている
「華やかなりし日々」。見ました。

今一番のお気に入り・若手座付演出家原田諒氏大劇場デビュー作としても
興味深かった。彼は若き日のシューイチローを彷彿とさせる
「ミュージカルバカ」演出家である。同じくミュージカルヲタのはしくれとして、
彼には大きな期待を寄せている。せっかくの大劇場なんだからと、
ぞんぶんに派手な盆・セリ、迫力の舞台演出を覚悟していたが彼の演出は
大劇場特有の「銀橋」を有効に使うくらいでしかない。

宝塚独特の「銀橋」という動かない舞台演出。
諒くんはとてもうまい使い方をしていると思う。ニック(北翔)を座らせて歌わせる。
それだけでなんとも情感あふれるシーンにしてくれる。
最後の深紅のバラを銀橋に置く演出も憎い。それをジュディに拾わせるのではなく、
次にバトンタッチの意味も込めてかアーサー(凰稀)に拾わせるのも
また一興だ。本当は、わたしはジュディ(野々)に花束を贈るという意味で
ジュディに拾わせてほしかったというのも本音ですが。

根底は「ミュージカル」なので、音楽が素晴しく(太田健)、名曲そろい。
どこかウキウキなるのもミュージカルの大事な要素のひとつだ。
お話が楽しかったらいうことなし。その点では、わたしは思う存分楽しめた。
ロナウドが詐欺師だとばれる原因がニックが恋人に送ったネックレスというお話も
うまいと思った。宝塚のトップスターのサヨナラ公演で
「トップ(主人公)が警察相手にヘマをした」というのはあまりに後味が悪い。
(ヅカヲタ独特の解釈だと思うが)

ゆうひ氏は最後まで「完璧な」男役トップスターだった。
一瞬のスキをも見せない完璧な演技。
それどころか、「まだまだ青いね、アーサーくん」という愛嬌までこめられていると
思わせる。バカにしているのではなく、がんばれよって意味の背中。
最後まで捕まらない、きっとどこかの街でロナウド、いや、大空祐飛という
男役がいる、という脚本もうまくできていると思う。宝塚にはもういないけど、
大空祐飛はたしかにここにいた、というブックマーク的作品になったのではないだろうか。

ジュディの前ではとことん優しい「王子様」なロナウドも私の中ではポイントが高い。
顔が柔らかくなり、愛しているとにじませる表情。
ゆひすみコンビは永遠であるといいきる自信がある私にはこの上ない
祐飛氏からのプレゼントである。この作品は、愛しあっているふたりの最後は
描かれていない。結婚したというゴールも描かれてなければ、
別れたというアンハッピーエンドにも描かれていない。
ジュディの泣き顔も描かれていないし、どっちかが死んだとも描かれていないのだから、
永遠に夢を見ることができる。その後のストーリーで、
ジュディが永遠にショースターであり続けることもできれば、彼女をなぐさめる
アーサーと幸せに結婚という道もあるだろう、ただしそんなのは邪推にすぎない。
ロナウドとジュディは、本当の恋人でお互いの運命の人、という
大人のお伽話である。ジュディにとってロナウドとは、王子様なのだから。

ジュディの人間像はまさに諒くんの得意とするヒロイン像であろう。
気が強くて負けず嫌い、鼻っぱしが強くてそんじょそこらのことじゃへこたれない。
オーディションに落ちようと、スターに嫌われて追い出されても、
絶対夢をあきらめない。そして、恋に夢中になる女の子の一面がかわいらしい。
ロナウドが自分の本当の姿を明かすのは、ジュディがそんな女の子だったから。
自分が自分であっても、それを受け止めてくれるジュディにロナウド
心底惚れていたのであろう。もちろん、彼の人生で一番。

これは単なる妄想だけど、ロナウドは一生独身で詐欺師だと思う。
単純にジュディを忘れられない、とかいう話ではなく、詐欺師以外できない男、という
意味でもなくもっと大きいふたつの「真実」。
ロナウドほど大きい人間は、リッチになることは
夢であり野望であったけれど、そんなの今となっちゃどうでもいい。
ただ、思い出だけを胸に「こっそり逃げた悪人」ではなく
「堂々とジークフィールドから出てきたアレクサンドル・ウォレスキー」
としてアメリカを後にするのだろう。
かっこよすぎるぜ、大空祐飛

話が薄っぺらい気もしないでもないし、かなめ姫が二番手にしては
おいしい役だなとも思うし(笑)まだまだ諒君には期待できる。この作品を見た後無性に
小池修一郎の「華麗なるギャツビー」(雪組初演・杜けあき版)が見たくなったのは
私だけであろうか。

絶大な人気を誇った大空氏のサヨナラ公演だったので、
ファンの方にはいろいろ思うところもあると思うけど最近の宝塚オリジナルの
お芝居としてはとことん「宝塚男役の美学」(※一般男性の美学ではないところがミソ)
が描かれているよくできた作品だと思う。

最後スモークがたかれるなか寄りそうゆひすみ、というのも見て見たかった気がするが、
こちらの「華やかなりし日々」、実に大空祐飛さんというトップスターらしい
「お前はお前、俺は俺」といいそうなラストにしたスタッフ陣に個人的には満足し、
「宝塚」らしくないけど「上質なミュージカル」を見れた気がして、そしてなによりも
「宝塚」らしい「男役のかっこよさ」を大空氏から堪能できた。
この円熟味は、大器晩成型の大空祐飛というトップスターしか出せないと思う。
最後、ひとりスーツを手におどけて歩く後姿になんともいえない
色気と愛嬌、さすがトップスター!!という掛け声をかけたくなるラスト公演であった。